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その名はスサノオチヌ…!退治されるのは、魚なのか釣り人なのか
汽水湖をつなぐ河川に潜む山陰・島根のストロングチヌ。
シジミを飽食して蓄えたパワーに名手たちも…。
撮影・文/ちぬ倶楽部・前川崇(まえかわ・たかし)
目次
スサノオ伝説とは?
スサノオとは、日本の神話に登場する神「タケハヤスサノオノミコト」のこと。
出雲の国、つまり現在の島根県で1つの胴体に8つの頭、8つの尾を持つ大蛇の怪物「ヤマタノオロチ」を退治した。
そのときに怪物の体内から出てきたとされるのが、実在するという草薙剣(くさなぎのつるぎ)。
天皇の皇位継承の際に受け継がれる三種の神器のひとつ。
汽水湖といえば静岡県浜名湖が有名だが、チヌをフカセ釣りで狙うとなると狙えるポイントは限られてくる。
しかし、島根県の境水道から中海、そこにつながる大橋川にかけては、どこでも竿が出せるほど釣り場に恵まれ、釣れる魚は大きくて強い。
それはいつしか「スサノオチヌ」と呼ばれるようになった…。
干拓事業の中止でチヌが回帰。境水道から中海、そして…
中海の干拓事業が始まったのは1960年代に遡るが、社会情勢の変化で1990年代に中止が決まり、最終的に水門の撤去を終えたのは2009年のこと。
当時から「中海七珍」と呼ばれる魚介類への影響が懸念されていたが、ひとまず大きな不安材料がなくなったことは喜ぶべきだろうか。
そして、干拓事業の中止は“七珍”以外の生物にも大きな変化をもたらした。
「昔は、一番奥の宍道湖にはチヌがほとんどいなかったんです。これは漁師さんも言ってるし、僕の友人で地元の方がいるんですけど、やっぱりそう言ってます。当時、中海の干拓事業が進められようとしていて、境水道から中海に入ったところにある江島のところに水門を作ったんですよ。干拓堤防が全部できて、江島と境港の間だけが海とつながって、なおかつ水門ができたからチヌは入るに入れなかったんでしょうね。干拓事業自体はストップして、堤防も潮が抜けるようにしたので海の魚が戻ってきた。それが20~30年前の話です」
そう語るのは、ご存じチヌフカセの“教授”中西毅さん。
境水道で竿を出し、この界隈の釣りに魅せられたのが約10年前。
チヌを追いかけて中海へ、そこにつながる大橋川へと、魚とともに徐々に遡ってきたのだった。
飽食しているのはシジミだが、実際の釣りでは中層を意識する
秋晴れの一日、中西さんは沖永吉広さん、波多瑞紀さんと一緒に大橋川へとやってきた。
沖永さんは通い始めて4、5年。
波多さんはまだ4、5回目だが、皆ここのチヌの大きさと強さに魅せられている。
チヌと食のイベントにも関わっている波多さんは、味についてこう語る。
「いい意味で魚がゴツい。瀬戸内海のチヌがヘルシーに見えます。子供に食べさせたら『これはチヌじゃない!』と言いましたもんね(笑)。身は霜降りみたいなんですが筋肉質」
サイズはともかく、そのパワーや味の理由かもしれないと考えられているのがここのチヌの食性。
胃の中を調べてみるとシジミ(ヤマトシジミ)を飽食している個体も多いのだという。
まさかシジミをエサにするわけにもいかないので、マキエやサシエはいつもの通りオキアミがメイン。
それで問題なく釣れる。
ただし、3人が口を揃えて指摘していたことがある。
底に注目しすぎることはよくない。
むしろ中層をいかに時間をかけて狙うかが鍵となるとのことだった。
沖永さんはこうも言っていた。
「地形変化が場所によって違うので、基本的には自分が思ってるよりもタナは浅く浅くですね。底であまりマキエを拾うようなチヌではなくて、反応がいい魚ほど中層をフワフワしよるんで、中層をメインに手返しよく流して、潮が行きだしたらその中をしっかり流して釣ったり、流れをクリアすれば素直に釣れてくれます」
もちろん、3人ともここのパターンは把握済み。
次々と竿を曲げていった。
中西毅(Tsuyoshi NAKANISHI)大学進学と同時に広島へ移り住みチヌ釣りに出会う。G杯連覇の強豪だが、トーナメントよりチヌそのものが好きな熱い釣り師。ちぬ職人
沖永吉広(Yoshihiro OKINAGA)激流の流れる芸予諸島がホームグラウンド。あらゆる仕掛けを試した結果、棒ウキの釣りにたどり着く。
波多瑞紀(Mizuki HATA)環付きの宗うきを武器にトーナメントシーンで活躍。急潮走る芸予諸島を中心に腕を磨いている。GFG中国
サシエはゆっくり沈めてアピール。釣れる魚のコンディションは最高
中西さんは言う。
「水深はどこも浅くて、深くても4mくらい。潮の緩いところはできるだけエサの沈下速度を落として『見せる』釣りがいいです。軽いエサに軽いハリでゆっくり、ゆっくり。速いところは、ある程度の層でしっかりトレースできるように。エサ取りも多いのでチヌは競争して浮いてきます」
中層を意識した釣りになるから大事なのはサシエをゆっくり沈めて見せること。
ネリエも用意はしているが、メインとなるのはやはりオキアミだ。
3人の意見は一致していた。
さらに波多さんは、この日の釣りで気づいたことがある。
「イエローよりも透明感のある加工オキアミがよかったです。それを上下に動かすと反応がいいみたいですね」
釣れてくる魚のサイズはほとんどが40cmオーバー後半。
50cmオーバーの年無しもまじってきた。
そしてどれもコンディションがいい。
やせた魚はおらず、銀ピカか、黒くてもいかついほどの体高で釣りあげた者を威嚇しているかのような迫力だった。
「境水道へ来たのはもう10年以上前です。当時は僕の知ってる範囲だと中海から大橋川にかけてフカセをしている人はほとんどいなかった。聞いたことはなかったです。境水道で釣れる、というのが分かってきた頃に地元の知り合いの方に呼んでもらったのがこのあたりに来た最初です。水道ですからすごく潮が流れるんですよ。その潮の中でチヌが浮いてきて引ったくっていく。それがほとんど50cmオーバーやったですね」
中西さんに強烈なインパクトを残したチヌは、アベレージサイズもパワーも、味も抜群だった。
そして、そのような魚が中海にも、大橋川にも潜んでいることが分かってくるにつれ、ここの釣りに魅了されていった。
『がま磯チヌ競技スペシャルⅣ』伝統を受け継ぎ進化した競技ロッド。
競技ロッドの伝統はそのままに、新カーボン素材の「TORAYCA(R)T1100G」を採用して軽さ、パワー、操作性を劇的にアップ。
0号は波多さん、0.6号は沖永さん、1.25号は中西さんが取材時に使用していたが、全員が判で押したように高い操作性とパワーに驚いていた。
また、前出の号数以外に1号もあり、1.25号以外は5㍍もラインナップ。
価格は7万8000~8万1000円。
最強素材採用の新作チヌバリ
他の金属を貫くほどの「G-HARD V2」を採用した「貫チヌ」。
無光沢で目立ちにくいF-NSBとファインピンクの薄膜コーティングを施している。
0.8~4号までの5サイズ。
※写真はプロトタイプ
道糸を切られることも珍しくない。そんな魚を陸っぱりで狙う魅力
中西さんは「特に夏から秋が面白いですね。浮いてきたデカいチヌに何回も道糸を切られたことがあります。このあたりは型が大きいですが数も多い。小さいチヌもすごくいますから。あと、やっぱり全天候型ですよね。どっちから強風が吹いても風裏に行けばいい。それが陸っぱりのメリットでもありますから」
中西さんに次いでここに通っている沖永さんの評価も同じだ。
「型はいいし魚のクオリティもいい。55cmを超えたらなかなか取れないですしね。意外とバレる。切られてしまうんですが、何かに当たるんでしょうね。あとポイントが多くて陸っぱりで竿が出せるので、ついつい来てしまいます(笑)。どこでよく竿を出すというのはなくて、1日2カ所、3カ所回ったりもします」
夢のロクマルを超えているであろうチヌは、きっといるはずだというのが、3人の共通認識。
もちろん掛けることは簡単ではないが、その強さゆえ、掛けてからも難しいであろうことは容易に想像がつく。
神話のスサノオは大蛇を倒す強さを備えていたが、ここのロクマルチヌも釣り人を打ち負かすパワーを秘めている。
めったにチヌに負かされることのない彼らだが、だからこそ、何度もここへ通ってしまうのだろう。
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ライター紹介
前川崇
1973年生まれ。
近畿大学水産学部を卒業後、釣り週刊誌編集部を経てフリーランスに。
現在は『アユ釣りマガジン』『磯釣りスペシャル』『ちぬ倶楽部』などの編集に携わる。
撮影ほかメーカーのカタログやウェブサイトのコピーライティングも手がける。