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山陰ヒラマサ釣りの伝統「タルカゴ釣法」に迫る 魅せられた達人が進化させた現在の姿を紹介

松村計吾

山陰地方、特に島根県で古くから親しまれている「タルカゴ釣法」。

マキエカゴとウキが一体化した独特なアイテムを使い、沖のピンポイントを直撃できる利点を持つ。

ターゲットとしては磯からのヒラマサ、ブリなどの青物を始め、現在ではマダイやグレ、イサキといった「磯から狙えるものなら何でも狙える」と言う釣りとして、ハマる地元アングラーも多い。

現在はできないが、クロマグロの規制が入るまではマグロ狙いに熱心なタルカゴ師も。

テレビ大阪系列で毎週土曜日朝6時50分から放送されている釣り番組「フィッシングDAYS」では、山陰の名手でがまかつフィールドテスター・小島一文さんが「タルカゴ釣法」を紹介。

本人が実践する中で、独自に進化させて釣りの幅を広げることに成功した現在の姿も放送した。

今回は、小島さんの実釣の中からタルカゴ釣りの基本から進化型のタルカゴ釣法について、その魅力を紹介していきたい。

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タルカゴでの釣りでゲットしたイサキ

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豪快に沖のポイントを直撃する釣り方がタルカゴだ

そもそもタルカゴ釣法ってどんな釣り?

山陰方面で古くから親しまれていた釣り方に「三点釣法」と言うのがある。

これは、三つ又のサルカンを中心に、一方は竿(リール)からの道糸、もう一方がハリス、鈎が接続されていて、最後の一方は1ヒロ程度の糸の先に自重のあるウキが接続されている仕掛けを駆使した釣りだ。

仕掛けの投入はウキを振り子のように揺らして投げる。

ハリスはターゲットに合わせて長さを調節するのだが、深いタナになればハリス部分を長くする。

が、投入時にうまく操作しないとハリスが絡んでしまう。

慣れた人になると、10m近い長さのハリスをロープのように輪にして手に持ち、投入時にスルスルとうまく放して投げる。

いわば、深いタナでも固定仕掛け、オモリを打たない軽い仕掛けで深いタナを攻めることができるメリットがある。

マキエはフカセ釣り同様、マキエシャクでの上撒きが基本だ。

ただし、デメリットもある。

投入に手間がかかるため、ペースよく釣ることが難しいのと、ハリスが長いので取り込み時は苦労する。

そのために独特の棒の先にカギを取り付けたアイテムを使っての取り込み方法もされているのだが、とりあえず効率が悪いと言われていた。

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タルカゴ、三点釣法でのやり取り

「特に山陰方面は干満差が小さく、潮の流れが緩やかなので、エサ取りが多い時期には大変です。できれば沖を攻めたい。そこで、沖の潮目をダイレクトに攻めることができるタルカゴが登場しました」と小島さん。

ウキとマキエかごが一体化したタルカゴを使うことで、投入時まではマキエカゴの役割を果たしていたタルカゴが、投入後にマキエが出た後はウキの役目となる。

沖のピンポイントでウキにマキエをかぶせた状態になる訳だ。

「いわゆるカゴを沈めて釣るカゴ釣りとは考え方が違い、超遠投ができるフカセ釣りと言う考え方です」と小島さん。

ハリスが少々長くても、タルカゴの中に鈎の付いたサシエを入れ込むことで、投げやすくなった。

基本的に水面でのマキエとなるため、フカセ釣りの範疇でのタナを釣ることが多く、特にヒラマサなどの水面近くを回遊するターゲットに強い釣法となっている。

タルカゴ釣法に使うタックルやアイテム

タルカゴ釣法の主役はやはりタルカゴだ。

その名の通り、樽の形をした木製のアイテムで、カゴの上部はオキアミなどのマキエを入れるための口、下部は荒い網目になっていて、ここからオキアミがポロポロと自然に出る仕組みだ。

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いろいろなタルカゴが市販されている

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タルカゴのそこは粗い目となっていてオキアミがポロポロと出る

タルカゴがマキエを放出しながら、水面に浮いていることでアタリがあればタルカゴがウキの役目をはたして水面下へ沈むことでアタリと判別する。

「以前は木製のタルカゴがほとんどでしたが、プラスチック製の安価なタルカゴも登場して販売されていますね」と小島さんが話すように、地元の釣具店に行くと、さまざまな種類のタルカゴがズラリと並ぶコーナーがある。

中には、ターゲットに合わせて大小様々なサイズがあったり、投入後にタルカゴがひっくり返ることで一気にマキエが放出されるようなシステムになっていたりと、工夫がされている。

そんなタルカゴ釣法に使用するタックルは、遠投用の磯竿が主流だ。遠投を基本とするため、全体的に大きめのガイドが扱いやすいからだ。号数としてはマキエを入れたタルカゴを投げるので、2~4号程度は欲しいところ。

そんな中、小島さんがプロデュースも行った、がまかつ「がま磯タルカゴスペシャル」を愛用している。その名の通り、タルカゴ釣法用に特化した設計だ。

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がま磯タルカゴスペシャル

従来の太い号数の磯竿に比べると、かなり軽量化に成功しており、小島さんも「1日中タルカゴを振り続けても疲れにくいのがありがたいです」と言う。

そして、軽量ゆえの操作性の良さも売りだ。

タルカゴを遠投するために全体的に遠征用のガイドを使用しているが、特に一番手元に近いガイドは抵抗を小さくするために大口径のKガイドを採用するなど、まさにタルカゴ釣法のためのこだわりロッドだ。

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一番手元に近いガイドは大口径のKガイド仕様でトラブルレスなうえ、道糸放出時の抵抗も小さい

号数的には、中型マダイや小型ヒラマサなどをターゲットとした「ML(フカセ竿で2号相当)」、中型マダイヒラマサ、イサキ、グレなどを対象とした「M(同2.5号相当)」、中型マダイヒラマサなどがターゲットだが、不意の大物にも対応できるパワーを持たせた「MH(同3号相当)」、大型マダイヒラマサを対象とした「H(同3.5号相当)」の4種類があり、すべて5.3mの仕様だ。

大型スピニングリールに巻く道糸は4~6号でターゲットに合わせて号数をチョイスする。ハリスも同様で2.5~8号とターゲットに合わせるのが基本だ。

使用する鈎も基本はターゲットに合わせる。

小島さんは地元でのヒラマサ狙いでは「A1・TKO」の9、10号をメインに、イサギやグレがターゲットとなる場合は、「A1・ボイルグレ」の9号などを使用する。

フカセでの釣りよりもかなり大鈎でがっちりと掛けるのを主としている。

エサは魚を浮かせて釣りたいため、ボイルオキアミを使用する。

ボイルオキアミのみでも遠投はできるが、さらに遠投を要する場合は、パン粉などを混ぜ込むことで重量を増す。

また、押し麦を混ぜると海中でキラキラと目立ち遠くの魚に「アピール効果」も生まれると言う。

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マキエ、サシエともにボイルオキアミが主流だ

タルカゴに魅せられた小島さんが進化させる「遊動式タルカゴ」

固定式の軽い仕掛けを沖のポイントへダイレクトに投入でき、オモリなしのフカセ釣り状態で自然な攻め方ができる…。

タルカゴでの釣り方の大きなメリットだが、この釣りにはデメリット部分もあった。

それは深いタナを攻めにくい点や、投入時の仕掛け操作の難しさ…などである。

深いタナを攻めることができれば、一気に釣りのターゲットが広がるだけではなく、魚の食いに合わせてフカセ釣りのようにウキ下調整によって釣果がアップする。

また、短めのハリスでも深いタナを攻められるなら、仕掛けの投入も非常にラクになる。

小島さんがそう考えて、試行錯誤を繰り返した結果、徐々にタルカゴが進化し現在の形になったと言う。

それが「パイプテンビンを使った遊動式のタルカゴ」だ。

船釣りなどで使われる透明のパイプテンビンに道糸を通し、下部にサルカンを接続。

サルカンの先にハリスを結ぶ。パイプテンビンのオモリやカゴを付けるスナップにタルカゴを付けることで、道糸上をタルカゴが自由に移動できる遊動化に成功した。

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透明なパイプテンビンを使うことで遊動式へ進化

これでラインを緩めればじっくりと仕掛けが沈下し、遊動式のために深いタナまで仕掛けを送り込むことができる。

さらにバリエーションとして、ガン玉や水中ウキを付けることで潮での流し込みや、さらなる深いタナへのサシエの送り込みが可能になった。

さらにタルカゴにも機能を持たせた。

それは、ラインやパイプテンビンのスナップを付ける場所が、タルカゴの上下を移動できるようにしたことで、投入時はカゴの口が上を向き、着水後に道糸を軽く引くことで接続部分が下部へと移動して、マキエが一気に放出される。

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タルカゴに付けられた針金上をスナップが移動して上部から下部へ

小島さんいわく「従来のタルカゴはカゴの底からポロポロとマキエがこぼれる方式でした。

ただ、ヒラマサなど大食漢の魚に対してはマキエを出したい時に一気に出せる方が魚の寄りが良くなるんです。

なので、釣り人側でマキエの放出タイミングを調整できるように…と考えました」。

伝統釣法に魅せられ、はまり込んで、さらに釣りの幅を広げるために独自に工夫を凝らした小島さんの情熱には感服した次第。

タルカゴ使いの基本的な流れ

タルカゴを使った釣りの基本的な釣り方は、フカセ釣りとほぼ変わらない。

違うのはウキへかぶせるマキエが不要なくらいか…。

まずオキアミをタルカゴに入れる。

ボイルオキアミ使用が多いこの釣りでは、バッカンに海水とボイルオキアミを入れておく。

キッチンで使用する大きめの野菜用ザルを使って、水を切りながらタルカゴへオキアミを入れたら、指で少し押して固める。

サシエを鈎に刺したら、そのまま仕掛け投入へ。

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タルカゴにオキアミを入れたら指で軽く押さえる

狙うのは沖の潮目やヨレなど、潮に変化のある場所だ。ダイレクトに投入したら、少し道糸で引っ張るとカゴからマキエが出る仕組みだ。

そのまま流し込むのだが、道糸を緩めると、ハリスと道糸を接続するサルカンの重みだけでも徐々に仕掛けが入っていくので、少し送り込んだら引き戻し、まずはハリス分のタナを中心に攻めてみるのが重要だ。

エサが取られない状態が続けば、初めてガン玉を打ったり、水中ウキを使用して仕掛けを入れ込むようにする。

「基本的に魚を浮かせて釣りたい釣法なので、遊動式と言っても、すぐに仕掛けを入れ込まないようにしています。釣り開始からしばらくはハリス分のウキ下で、ほんの少しだけ沈めたら誘い上げるのを繰り返すくらいです」と小島さんは話す。

遊動式にしたことで魚がエサをくわえて引っ張った際の抵抗も小さくなり、食い込みがずいぶんと良くなったメリットも生まれたと言う。

アタリがあれば慌てず一気に大きくアワセを入れたら、あとはフカセと同様のやり取りで寄せてタモに収める。この時も遊動式な分、ハリスを短く設定できるので、取り込みもラクだ。

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アタリがあれば大きく合わせる

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取り込みはフカセ釣り同様、魚を浮かせてタモへ

交通=大阪方面から中国自動車道、米子自動車道を経て米子ジャンクションから国道9号(山陰道)を西進。

出雲市に入り、大島交差点を右折し、日御碕方面へ。

問い合わせ=なかいで丸(TEL:090・5372・7842)

(文・写真/松村計吾)

※当日の様子は、youtubeフィッシングDAYS「山陰の人気釣法 進化するタルカゴ釣り」https://youtu.be/2GCBk_xyKscで視聴できる。


「山陰の人気釣法 進化するタルカゴ釣り」

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ライター紹介

松村計吾

松村計吾

大学で水産無脊椎動物の研究を経て、釣り出版社に入社後、30年以上釣り雑誌や釣り情報紙の編集を手掛ける。取材などで釣りの現場に出ることはもちろん、休日などのプライベートでも常に釣りシーンにハマっている。得意な釣りは船のテンヤタチウオ、カワハギ、エギング、イカメタルなどだが、日本全国を飛び回りあらゆる釣りを経験。ちなみの甲子園の年間シートも所持。甲子園でのビール消費量も球界一とか・・・。