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【田嶋剛】日本一の激流・球磨川で尺鮎に挑む【がま鮎 パワースペシャルV】

FISHING JAPAN 編集部

9月末、パワースペシャルⅤ最終プロトを手に球磨川を訪れた田嶋剛。

狙うはもちろん尺鮎。

日本一の激流で、巨鮎を掛け、巨鮎を抜く。

パワースペシャルは球磨川(くまがわ)で生まれた剛竿ゆえ、球磨川のテストをもって完成となる。

とはいえ豪雨災害の翌年である。

果たして、鮎は無事なのだろうか。

いろいろな想いを抱え、田嶋は球磨川のほとりに立った。

球磨川の尺鮎を激流から抜くパワースペシャルというアユ竿

パワースペシャルというアユ竿がある。

球磨川の激流から尺鮎を抜くために生まれた竿である。

前作はパワースペシャルⅣ。

激流の覇王・野嶋玉造をして、これほどの完成度を誇る竿はほかにないとまでいわしめた名作である。

それゆえ、パワースペシャルVの開発に関し、野嶋の腰は重かった。

「竿作りに妥協はない。納得のいくものができなければOKしない。その覚悟があるならば、パワースペシャルⅤのテストを引き受けてもいい」

果てしなく続く長い旅路になるであろう覚悟と決意。

だが、意外にもテストは順調だった。

長年、蓄積されたがまかつの竿作りのノウハウと新素材がパワースペシャルを明確にアップデートさせた。

「パワースペシャルVは本当にすごいものに仕上がった」

この竿を手にした誰もが野嶋になれるというほど、魚釣りの、とりわけ荒瀬の大鮎の世界は甘くないが、それでもいつかは野嶋のように大鮎を瀬から自在にぶち抜きたいという想いがあるなら、パワースペシャルⅤという選択肢は、捨てるわけにはいかないだろう。

がま鮎 パワースペシャルV

がま鮎 パワースペシャルV

「球磨川健在。球磨川を盛り上げてほしい」という漁業組合長の切なる願い

9月下旬。

パワースペシャルVの最終プロトを手に田嶋剛は球磨川のほとりに立っていた。

かなり複雑な想いであった。

全国に激流の川、数あれど日本一の激流というならば、球磨川をおいてほかにない。

流れが強く、太く、鮎も大きく、強く、重い。

なかでも、球磨村周辺の瀬こそは、激流師にとって最後に訪れるべき約束の地にほかならない。

もちろん、田嶋にとっては毎年恒例の釣行である、

例年ならば。

けれども・・・。

球磨川を訪れたことのあるアユ師なら、誰もが知るところであろうが、球磨村には川口商店というオトリ店があった。

過去形である。

現在、このオトリ店はもうこの世には存在しない。

2020年の豪雨災害で被災し、跡形もなく流されてしまった。

それは建物だけの話ではない。

「今はまだ、球磨川へは行くべきではないのではないか」

幾度となく、球磨川釣行を見送る話はあがった。

しかし、こういった話で優先すべきは外野の想像ではなく、地元住人の感情である。

「県外からの釣り客が河原に並ぶことこそ復興の象徴。災害の翌年にあたる2021年は過去に例を見ないほど鮎が遡上している。むしろ来てくれ。球磨川健在を知らしめてくれ」という球磨川漁協の熱い想いにうながされて釣行を決意したのだった。

圧倒的な遡上量の鮎はいずこへ。荒瀬に鮎不在の謎に苦戦

それにしても、その災害が影響を及ぼしているのかどうかは分からないが、事前に下見として訪れた釣り場の状況は、以前の評判とは異なり、あまり期待できなかった。

「連日の雨で水位は高く、魚が密集している様子は無い」

事前に決められた遠征の日程では、釣行日が最適なタイミングに一致するとは限らない。

お盆前後では、大きな魚も含めてよく釣れていたといわれていたが、それは1か月以上前のことであった。

その後、長期間にわたって降った大雨の影響などを、遠方の地から遠征してくる釣り師が正確に把握するのは困難である。

取材の初日、梨の木の流れの左岸、背肩付近。

主要なポイントである流れの中心に近い場所から、餌を水面下に沈める。

しかし、何の反応もない。

「石が白いな」

鮎に磨かれた石の形跡が見当たらない景色は、追い気の強い鮎がたくさんいるようには見えない。

しばらく粘った後、腰まで立ち込み、見た目にはよさそうな人頭大の石組みへとオトリを誘導したところで1尾目が掛かった。

瀬肩であるから、無論流れは速い。

だが、当たり前のようにあっさりと抜いてしまう。

「尺はないけど大きいよ」

29㎝の鮎を事も無げに抜いてしまうあたりに、パワースペシャルVの進化がうかがえよう。

使うは荒瀬10m。

「もちろん、他に並ぶものがない剛竿ではあるが、抜く強さだけではなくオトリを弱らせることなく泳がせる調子も、この竿の特徴」

激流・球磨川の鮎がいくら大きい、強いとはいえ、1尾のオトリを弱らせることなく長時間泳がせようと思ったら、ただ強いだけの竿では釣りが続かない。

まして、最初の1尾は養殖オトリで釣らなければならない。

「荒瀬の竿と尺鮎用の太い仕掛けで養殖オトリを操るというのは、明らかにオーバースペックでアンバランスなんですが、パワースペシャルVは流れに入れやすいし、養殖でもオトリが長持ちする」

取り込むこと。

特に抜くことにばかりに注目が集まりがちだが、意のままにオトリを引けることや、弱らせずに自然に泳がせること、そして追われたときに逃げすぎないように抑えることも荒瀬のアユ竿に求められる調子。

その次元が高い。

背バリを用いないノーマル仕掛けで、びっくりするほど小さなオモリだけで、急流にオトリをなじませる田嶋の技術には目を見張るものがあるが、その技術をパワースぺシャルが下支えしているのは疑いようがない。

もうひとつ、パワースペシャルⅤの進化のひとつに、感度のよさがある。

追わせる能力の高さに加え、情報を感知する能力も磨かれたことで、大鮎・尺鮎釣りでありながら、緻密で繊細な攻めが可能になった。

初日、梨の木の瀬。早くも飛び出した尺鮎30.5㎝

その1尾目が掛かった場所を通過しても、次の追いがない。

いくら球磨川のアユの縄張りが広いとはいえ、いい場所では連発するものだが、この年の鮎はそこまでの魚影ではないのだろう。

幸い、次のポイントに誘導すると2尾目が来た。

これも大きい。

27㎝はある。

深く立ち込んだ先の竿抜けなのだろう。

田嶋の体躯をもってギリギリ立てる場所から、10mの竿で届くポイントにアタリが集中している。

3尾、4尾、どれも尺には届かないが、27㎝、28㎝、29㎝と型がそろっている。

頃合いとみるや、いよいよ本命である大岩が作り出すヨレの下流に下竿にして送り出すと、ひと際大きなアタリ

抜こうと思えば抜けたのだろうが、テレビクルーへのサービスも含め、下流で待ち受ける水中カメラの前で掛かり鮎を泳がせるパフォーマンス。

「田嶋さん、これデカいですよ」

興奮気味にカメラマンが叫ぶ。

田嶋にとって30㎝そこそこの鮎は、今さら慌てるほどの獲物ではないのだろうが、慎重に寄せタモに吊るし込んだ。

「尺でいいならあるよ」

30㎝枠の流しダモにシッポの先が掛かっていることを確認した田嶋が言う。

本人的には納得のいくサイズではないのかもしれない。

正確に測ってみると、30.3㎝の尺を確かに2㎜超えている。

まごうことなき球磨川の尺鮎である。

「ひとまず尺鮎が出てよかった」

ただ、本当の意味で田嶋が釣ろうとしているのは、31.5㎝以上の測るまでもなく尺と分かる鮎であり、夢は35㎝、40㎝の化け物のような鮎を釣ることである。

一般には想像もできないようなサイズかもしれないが、少なくとも球磨川には、そのサイズが現にいるのである。

数釣りの延長に尺鮎はいない。尺鮎には尺鮎の付き場がある

瀬肩を釣りきり、瀬の中段にあるガンガン瀬に降りていく。

球磨川らしい最高の激流である。

その荒々しい流れにすっくと立ち、ここぞというポイントにオトリを入れる。

だが、竿が曲がらない。

流心の脇から釣り始め、流心のど真ん中にも入れるが無反応。

反応がないとみるや、次々とオトリを下流へと移し、探っていく。

「こんなに最高のポイントでなぜ?」

大岩の瀬に鮎が不在。

首をかしげていると、ようやく強烈なアタリがあった。

これは尺鮎に違いないと寄せて吊るし込むと、丸々と太った球磨川独特の体型の鮎があがってきた。

「これは尺鮎・・・、あ、足りないか。でも300gはありそうだよ。球磨川らしい鮎」

鮎の魚影は少ない。

だが、その分サイズがいい印象を受ける。

「だからといって、簡単に尺鮎が釣れるというわけにはいかない」

田嶋でさえ、球磨川で尺鮎を手にするまで7年の時を要したという。

適当に数を釣っていて、尺鮎が釣れるというケースはマレで、尺鮎には尺鮎の付き場があり、その付き場を攻めて初めて尺鮎が狙って釣れるようになる。

球磨川の場合、それは竿抜けとなる足元の深みやオトリが馴染みにくい激流、深場のトロのほか、釣り人から見て死角になりやすいポイントが多い。

その付き場をいくつ知っているかが積み重ねであり、あとは攻めるタイミングの読みといった経験や戦略を釣り師は腕というのだろう。

温暖化の影響もあり、全国的に鮎が大型化している。

そういう意味では、尺というハードルは田嶋が苦戦していた20年前よりは低くなっているのかもしれない。

それでも30.3㎝という壁は、依然多くのアユ師の前に立ちはだかっている。

性格の違う激流ロッドをどう使い分けるか

梨の木の瀬の最下流に待ち受ける水深の深い大場所。

ここで勝負をかける。

目いっぱいまで立ち込んでオトリを入れる。

尺鮎の実績が高い一級ポイントである。

ズンッというアタリがあり、強い引きでパワースペシャルVが絞られる。

「いや、これは・・・」

球磨川の尺鮎は、掛かった瞬間対岸へ走って竿をのされたり、激流をものともせずに上流へ走るという。

あるいは、掛かったことを気づきもせずに、ドシンとその場に居座ったりする。

竿先がガタガタッと揺れて、下流に走るようでは期待できない。

「球磨川の尺鮎は、激流で鍛えた胸ビレを開いて流れをつかむ。竿を絞り込んで立ててもオトリ鮎の鼻先がなかなか水面から出てこない」

そうではなくて意のままに寄ってくるようでは、尺というサイズには届かないのだろう。

「とはいえ、いいサイズだな。尺鮎とまではいかなくても28~29cmはある。このサイズが無理しているわけでもないのに、身切れなく抜けたり寄せたりできるのは、竿の性能といわざるをえない」

いろいろなメーカーの竿を使い比べて、最後にがまかつの竿に至るという話が、急瀬、荒瀬に関してはよく聞く話だと田嶋は言う。

そのがま鮎のパワースペシャルに関しても、ⅣよりⅤの方がアドバンテージをはっきりと感じる。

「がま鮎のパワーロッドを選ぶとき、パワースペシャルとパワーソニックのどちらにすべきか悩む人が多いと思う。この2種類は明らかに性格の違う竿。パワースペシャルは先調子といったら語弊があるけど、穂先から胴まででしっかり受け止め、球磨川のような激流からでも流れを切って鮎を抜ける竿。パワーソニックは胴調子のイメージ。掛けた瞬間、一気に胴まで乗って竿全体で受け止める。掛かった瞬間から竿がサポートしてくれるから、釣り人がワンテンポ遅れても間を作ってくれて、立て直す時間ができる。荒瀬デビューする方や、足腰に自信がない方、竿全体が美しく曲がるのが好きな方はパワーソニック。球磨川以外の荒瀬アユなら大概は問題なく抜けます」

そのうえで球磨川のような急流では、掛かり鮎の引きに合わせついて下れない場所がたくさんある。

必然的に、大鮎、尺上を抜く必要が出てくる。

そういった背景ゆえ、パワースペシャル一択であると田嶋は語る。

「一択というか、球磨川で尺鮎を釣るなら、パワースペシャル荒瀬10mか、ロングレンジの11m・12mで悩む。ポイントで使い分けたいから、両方持っている方がベストですけどね」

メジャーポイントである修理の瀬は不発。鮎の付き場が変わりやすい終盤の難しさ

翌日、修理の瀬に挑む。

以前ほどの迫力はなくなったとはいえ、球磨川下りの船を壊すほどの荒瀬である。

瀬肩から釣り始めると、さっそく追いがあった。

これも大きい。

前日から田嶋の釣った鮎は、すべて27㎝を超えている。

「とはいえ、尺はないな」

この大きな鮎をオトリにオモリを背負わせ、流心を探る。

だが、例によって大岩の瀬では続かない。

「季節の影響もあるかもしれないが、大石主体の荒瀬で鮎が掛からない。こういう場所は、技術・体力のあるベテランじゃないとなかなか竿を入れづらい場所なので、鮎が釣りきられているということは、まずありえない。何か理由があるのかもしれないけど、ただ、鮎が荒瀬にいないのは間違いない」

丹念に探ったが、瀬の中段で鮎を掛けることはできなかった。

瀬を見切り、修理の瀬の上流にあるトロ場へ。

ここで1尾を追加するも、次が出なかった。

「災害の翌年ですからね。本調子とはいかないのかもしれない」

とはいえ、この2日間で1本の尺鮎をしっかり手にしているあたり、田嶋の技術と球磨川の懐の深さといえよう。

激流の瀬を見切り、大淵へ狙いを絞る。そして2本目の尺鮎を掛けた

最終日、続く決戦の地は渡(わたり)と呼ばれる瀬。

その中で、最も強い激流が待ち受ける瀬肩に田嶋は立った。

掛けたら瀬を下らずには取り込めないというか、ほとんどの人は取り込むイメージが湧かない。

よほどの激流マニアでさえ、このポジションには好き好んで立ちたくはないと思われる。

そもそも流されれば命の危うささえある。

そんな瀬肩にオトリを入れると、すぐにアユを掛け、タメる。

タメをきかせながらも流れ下る田嶋。

急流に呑まれ頭まで瀬に水没し、竿だけが水面に残される。

だが、なお、タメをきかせている。

水面から飛び出すや、これ以上は下らせまいと強烈にロッドを絞り込み、一気に抜き上げる。

尺近い鮎をものともしない。

荒瀬を自由に闊歩する姿は、まさに現代の荒瀬の王といわんばかりの風格である。

「尺鮎を取りに行こうか」

この数日のアユ釣りを分析し、今の尺鮎の付き場はどうやら荒瀬の流心ではないと判断し、渡から大きく下り、高鼻の瀬の上流にあるトロ場というか深淵に移動した。

淵といっても流れはある。

深く押しの強い流れに、オトリを入れる。

ズシッという音が聞こえてきそうな、アタリとともに竿が絞りこまれる。

「これはデカい」

田嶋はつぶやくと、2歩、3歩と下がり、流れの脇へと寄せてくる。

流心から外したあたりからは、引きもおとなしく割とあっさり足元まで寄せてしまった。

ところが、この掛かり鮎がデカかった。

「え?あれ?これ、大きいよ。尺あるかもしれない」

尺を超えていても、瀬にあらずんば役不足といわんばかりに、あっという間にタモに収めてしまったが、測ってみるとなるほど30㎝を超えている。

この度、2本目の尺を手にして、田嶋の球磨詣でのしめくくりとなった。

尺鮎は狙わなければ釣れない。

絶対にではないが、数釣りに混じるようなものではない。

まして田嶋の狙う鮎はメジャーを当てるまでもなく、ひと目で尺を超えているとわかる鮎。

「こんなことを言ったら、一部の人にはこころよく思われないかもしれないけれど、本当の意味での尺鮎は31.5㎝を超えている鮎だと自分では思っている。このサイズになると測らなくても尺鮎だとわかる。それくらい見た目の迫力が違う」

この釣行における尺鮎は2尾。

本来は十分な釣果であろう。

だが、目標とするサイズに至らなかった田嶋は不完全燃焼である。

とはいえ、あれほどの災害を乗り越え、球磨川に鮎がいた。

今はそれで十分だと納得すべきだろう。

球磨川が球磨川であり続ける限り、挑戦は終わらない。

今年もまた、訪れることになるだろう。

その手にはパワースペシャルⅤを携えて。

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