【磯釣りスペシャル】サシエの通る数投に、すべてを ~門野吉洋のあきらめない精神力が良型チヌを導く@和歌山県田辺湾~
サシエが通るチャンスはわずか数投。 ポイント一面に木っ葉グレが乱舞し続けている。 しかし、決してあきらめない門野さんは並外れた集中力と精神力でその数投にすべてをかける。 絶…
細田亮介磯釣り・フカセ釣りの2大ターゲットといえば、グレとチヌ。
なかでもチヌは、北海道から鹿児島まで全国のほとんどのエリアに生息する身近な魚。
それでいて警戒心が強く、手ごわいターゲットとして人気がある。
そんなチヌのフカセ釣りの基本中の基本を解説。
実釣をふまえつつ、ベテランでも意外に見落としがちなチヌ攻略法にせまる。
目次
前人未踏、G杯チヌ選手権4勝を誇る無敵のカリスマチヌトーナメンター。独特の大型タマウキ0号『南ウキ』に軽量・繊細な仕掛けをセットし、チヌを浮かせて数釣りに持ち込む攻めの釣りが必勝パターン。がまかつ・マルキューフィールドテスター。
「最高の撒き餌ができました」
朝一番の重労働であるコマセ作り。
ルーティーンワークだけにベテランになると軽視しがちであり、ルアーから入った磯釣り初心者にとっては疑問だらけであるが、磯釣りにとって、コマセはもっとも大事な要素の一つである。
南をはじめ、トーナメンターはコマセ作りにはこだわりがあり、人それぞれ、流派がある。
「クロダイの撒き餌というと、練り込んで飛ばしやすいようにする人もいますが、そうやって粘りを出すとバラけにくくなって、沈下が速くなり、底の方にたまりやすくなります」
底付近にタナを設定する場合にはそれでもいいが、南はコマセを練り込むことはしない。
「私の場合は、できるだけ浅場にチヌを誘い込み、浮かせて釣るスタイルですので、飛距離よりもバラケやすさを重視しています」
そのため、水の量はやや少な目。全体に水はいきわたっているがバサバサとしている。
「といっても、チヌ用の撒き餌はグレ用と違ってよく水を吸い込むので、入れる量はそれなりです。
袋に目安は書いてあるので、その分量を入れるようにします。
いや、ちょっと少な目かな。僕は目分量で混ぜながら、硬さをみつつ、水を足しています」
先に粉を混ぜる。
使う配合エサは、チヌパワームギスペシャル1袋、瀬戸内チヌ1袋、チヌパワーダッシュ2袋。
これらは季節や場所で変えることはなく、南のチヌの撒き餌の黄金比となっている。
「人によって使う配合エサはいろいろあるだろうけれど、だいたいチヌパワームギスペシャルは必ず入っている。
このエサがベースで、あとは釣り場や好みで使う配合エサが変わる。
僕の場合は、いつでも、どこでもこの配合。
これにオキアミ3キロを2ブロックくわえたのが1日分の撒き餌の量」
当たり前といえば当たり前だが、まず、オキアミを溶かしておく。
これだけは前日からやっておくしかない。
「完全に解凍すると腐ったり、変色したりするので、3分の2が溶けているくらいがベスト。
ガチガチに凍っていると細かく砕かなければいけなくなるが、できるだけ形を崩したくないので、溶けていないのは使いづらいですね」
よく混ぜ合わせた配合エサの上にオキアミを乗せ、さらに混ぜ合わせる。
ここで、オキアミをどれくらい切り刻むのか?
「僕の場合は、細かく刻むのではなくオキアミの形が残るようにする。
チヌではひとつのオキアミが半分になっている程度に砕いています。
マダイの場合は、オキアミがそのままの形で残るようにします。
マダイは、刻んでいないボイルを好みますね。グレの場合は、細かく刻む人も多いです」
オキアミを細かく刻むほど撒き餌のまとまりがよくなり遠くへ飛ばしやすくなるが、チヌの活性を上げたり、サシエサを食わせるにはオキアミが半身程度、残るようにした方が南のイメージを再現できる。
ちなみに、この日は1日分の半分の量を先に作り、昼過ぎの時合いの前に2回目のエサ作りを行った。
「クロダイのエサはどうしても量が多くなるので、このように2回に分けて作ることが多いです」
時合いが事前にわかっているならば、時合い前に2回目を作る。
潮止まりの干潮など食いが悪い時でもいい。
まさに時合いの真っ最中にコマセが切れるようでは多くの釣果は望めない。
「釣具店によっては、コマセを混ぜ合わせるのに便利な容器や装置を用意しているところもあります。
そういう場合は1日分、つくってしまいます。
バッカンのなかで上手に混ぜ合わせるのは難しいし、時間がかかりますからね」
用意したサシエサは、食い込みイエローLのみ。
オーソドックスなエサの付け方は、ハリにシッポの方から丸くつけるやり方。
南の場合は、どうやってつけるのだろうか?
「投げるとき、そして、エサ取りにかじられた時、なるべくハリから落ちないようにつける方法を模索した結果、オキアミの頭をとって半身にし、腹側からシッポに向かって丸くつけるのがよかったので、僕のチヌ釣りではこのエサの付け方が基本です」
ハリはナノチヌフカセ1号を使う。アベレージサイズが大きい場所や50㎝をはるかに超える大型が狙える場所でも1号か2号までしか使わないという。
がまかつ(Gamakatsu) バラ ナノチヌフカセ フック (ナノスムースコート) 3 釣り針
「大きいハリはバレることが多かった。
小さいハリの方が、軸が細くて刺さりやすいし、ハリの幅が狭くて開きにくい。
小バリの方がいい場所に掛かるんですよ。
結果として、チヌのサイズが大きい場合でもバレることが少ない。
大きいハリを使う方がバレは多かったですね」
もちろん、小さいハリの方がスレた魚に対し目立ちにくいとか、よりゆっくりエサを自然に漂わせることができるといった点もあるに違いないが、南が重要視しているのは、確実なハリ掛かりとパワーファイトでの保持力。
つまりバレにくさだった。
竿は0号。
狙うチヌが大きくても、1号以上の竿を選ぶことはしない。
「0号か、せいぜい0.6号。瀬戸内海にかぎらず、チヌは浅場の岩場や根まわりでやり取りすることになる。
特に大型になれば、岩にハリスがこすれて傷が入るケースは少なくない。
その時に、0号や0.6号だったらハリスに傷があっても竿の柔軟さが衝撃を吸収して、テンションをかけていても切れにくい。
これが、1号以上の張りがある竿になるとちょっとの傷でハリスが飛ぶ」
結果として、60㎝のチヌを狙うような時でも0号や0.6号の方が糸は切れにくいという。
「もちろん、自分が普段、釣っているスタイルの延長で60㎝、70㎝のチヌを仕留めたいという気持ちもあります。
巨大なチヌを狙うからといって、太ハリスを使ったり、2号の竿を使ったりはしたくないんです。
魚に圧勝したいとか、力でねじ伏せたいわけではない」
長さは5.3m。
長いハリスを使うことが多いので、5.0mよりも5.3mの方が仕掛けをさばきやすく、ストレスがないと南はいう。
道糸2号、ハリス1.5号。
ウキは南ウキチヌスペシャル0号。
釣り場を選ばず、南の基本となる仕掛けである。
ウキ止めは使用しない全層フリー仕掛けで、オモリは流れの強さや水深によって変わるが、G4~G7の小さいオモリを1個か、せいぜい2個打つ程度のクロダイにしては軽い仕掛けを常用する。
この日は、ジンタンオモリG7をハリスと道糸の結び目から50㎝ほど下に打った。
ハリスの長さは長い。
「僕のハリスは人より長い方だと思います。
ウキ止めは使用しない全誘導の完全フリースタイルですが、原則、ハリスの長さが探るタナの深さだと考えております」
2ヒロ半をベースに3ヒロとることもある。
ただ、あきらかに水深の浅い場所を探る際には、当然、1ヒロや1ヒロ半になることもある。
この日も本格的な時合いとなる満潮の前後には、岸際の浅い場所にチヌが刺してくるのでハリスは1ヒロ半まで短くすることを想定していた。
「ただし、活性が高いチヌが食う時は浮くし、浮かせて食わせるように仕向けるので、エサがハリス分の水深まで落ち切る前に捕食されることが多いです」
チヌのシーズン中はエサ取りも多く、なかなかエサをとられずに長い距離を流すことはかなわない。
南はエサを投入してからエサがとられるまでの時間をカウントして仕掛けを打ち返すリズムを作っていた。
この日おとずれたのは香川県詫間沖にある粟島。
小さな磯ではなく有人島である。
時合いは満潮前後に集中すると南はいう。
「干潮時には、沖のイケスの下とか深場に巨チヌが待機しているイメージですね。
はるか遠くにいて、仕掛けの届くところにはいない。
上げ潮で満潮が近づき潮位が上がると、巨チヌが浅瀬に刺してきてエサを探します。
それこそ干潮で干上がっていた場所に満潮時には入ってきます。
特に、このポイントに関しては、満潮からの下げ潮で岸沿いを平行に流れる力が強くなるので、満潮をすぎて下げ潮の潮が効き、潮位が高いタイミングで食わせやすいです」
それゆえ可能であれば10時ごろに満潮を迎える潮まわりだとチャンスが多いのだが、この日は干潮が9時、満潮が13時、そして、磯上りが14時すぎであった。
朝まずめに干潮がらみであり、また、満潮から下げ潮が走る最もいい時合が訪れたころには撤収となってしまうチャンスが少ない釣行日である。
果たして南は、いかに攻略するのか。
瀬戸内海は西日本にあって、和歌山および山口の入り口が狭いためか、海水温の上りが周囲の海よりも遅い。
また、海水温が低いのか、塩分濃度が低いのか、棲んでいる魚も日本海に似ていて、グレは少なくチヌが多い。
当然、広島をはじめとした磯師はグレよりもチヌを重宝する。南もそのひとりである。
瀬戸内海は干満差が大きい。
そのため、まず、干潮時に磯の先端に立った場合には、その足場はあっという間に水没してしまう。
それゆえ、ちょくちょく釣り座を動く必要がある。
また、それだけの干満差であるから、当然、流れが速い。
ポイントにもよるが浅い釣り場が多いという特徴がある。
4月中旬の釣行であるから、地域によってはチヌのハイシーズンであろうが、香川県詫間沖は、まだ、シーズンの走り。
当日は、雨による曇天で水温の上りが期待できない状況であった。
5月の連休ともなればハイシーズンに違いないが、釣行日はまだまだ不安定な季節。
とはいえ、時合いや天気のいい日ばかりを選んで釣りに出かけるわけにはいかない。
撒き餌作りを終えたものの、すぐには釣り始めず、朝食をとりながら海を観察していた。
「朝まずめではあるが、干潮まわりは期待できない。撒き餌の温存も含め、昼過ぎの時合いまではゆっくりやるほうがいい」
干潮まわりで5m先までは水深が浅く釣りにならない。
20m程度を目安にやや遠投しながら、探るもののチヌのアタリは遠い。
「まだ、チヌが寄ってない。
ただ、この干潮時にあまり遠投はせずに、近場にエサを撒き続けると、潮下からチヌがやってくるし、その際、目の前にポイントができる。
ここで、遠投して釣ろうとすると、潮が上がってくるに従い、釣り座を岸際に移動しなければならないので、ポイントがどんどん遠くなって、深くなって釣りづらくなってしまう」
時合いのタイミングで最高のポイントを作るために、干潮のタイミングからエサを撃つ場所を計算する。
いまの釣果を優先するのではなく、最高のタイミングに最高のポイントをつくりだす。
そのためには、満潮時に容易に仕掛けが届く距離の場所に、干潮時にエサを撒く。
「フグがあっという間にエサをとる」
潮の動かない干潮まわりは、フグの猛攻に合い、ウキがなじむころにはエサがとられていた。
もちろん、このタイミングでも釣れないわけではないのだが、ポイントづくりの一環であるからフグが釣れるのも仕方ない。
ところで南のコマセワークを見ていると、ウキよりも釣り人側にまとめてコマセを投入している。
ウキにかぶせることも、ウキよりも遠くに入れる事もない。
通常、教科書ではウキを三角形で囲むように撒き餌をうち、付けエサと撒き餌が同調するようにするという解説を目にする機会が多い。
「釣り場に対し横向きに流れている今の状況では、もちろん流れなりに、流れと平行に仕掛けを流したいが、実際には流れに道糸をとられて仕掛けが手前に寄ってくる。
手前に寄ってきた際に撒き餌と同調することを計算してウキよりも手前に撒き餌を入れています」
実際に水中でどの程度、同調しているかはわからない、と断ったうえで、チヌのタナまで仕掛けがはいったときに撒き餌と同調するようにしているという。
上げ潮が効き始めるとだんだん流れが加速し、潮位が上がってきた。
それに合わせ、2度3度、釣り座を変える。
流れの最上流部に位置する立ち位置で、さんざんエサを撒いたのち、最後の本命の立ち位置に移動する南。ここまでチヌのアタリは出ていない。
「ハイシーズンであれば、干潮まわりでも1枚くらいは釣れるし、今頃には何枚か釣れているだろうが、今日は特別、シブい」
満潮が近づき、急流と化していた流れが緩んだ。
「エサが残るようになってきた。
残る時間が長くなった。
チヌが寄って来ているはずですね。
そろそろ食うよ」
この日のエサ取りはフグが騒がしかった。
ただ、チヌが寄って来て群れでコマセに浮くようになれば、フグをはじめとしたエサ取りはいなくなると南は語る。
いまがまさにその状況であるとまではいわないが、海の状況がよくなったにも関わらず、エサがとられなくなった。
そうして、場所を移動してからの3投目だった。
1.5ヒロのハリスがなじむ少し手前、ゼロ号の南ウキが抑え込まれる動きを南は逃さなかった。
強烈な素早いアワセと共に根元から竿が抑え込まれ、微動だにしない。
「……海藻なのか? いや、魚だ。デカいよ、コレ」
竿尻を腰に当て、胴に魚の重みを乗せ、耐える。
タメるというよりは、魚の体力を搾り取るような南のファイトスタイルである。
トップトーナメンターだけにバラさずに素早く寄せ、浮かせることを重要視した結果、行き着いたこのスタイルは、派手さはないが無駄がなく、何よりも取り込みまでの時間が早い。
「がまかつのチヌ竿は、こういうパワーファイトでチヌが全然叩かない」
強烈なテンションを掛け、竿の硬さが伝わるとチヌが嫌がって首を振ったり、強烈な突っ込みを行う場合がある。
いわゆる叩きと呼ばれる現象で、竿の叩きを防ぐためにテンションを弱めてはいたずらにやり取りの時間がかかるし、何よりもラインブレイクの可能性が高まる。
「もちろん、テクニックでかわす方法もあるが、そもそもがまかつのチヌ竿を使えば、テンションの強弱にかかわらず叩きにくいので、大胆に寄せることができる」
絞り込んだチヌ竿が弧を描いたまま、あっという間に距離を詰める南。
竿を絞り込み、寄せた分を巻き取るポンピングではなく、竿をタメて絞り込んだままリールを巻くやり取り法はチヌにテンションが掛かり続け、反転の隙を与えずに急速に体力を奪うことができる。
あまりのスピードと南の余裕ぶりから、そこそこのサイズかと思いきや、そこで海面を割ったチヌがデカかった。
「年なしですね。50㎝は楽に超えてる」
差し出されたタモアミにおさまったのは53㎝のチヌだった。
いまからが時合いというタイミングでタイムリミット。
「1週間前には45㎝オーバーが8枚とか釣れましたし、5月に入れば10枚前後は期待できるんですが、今日はシブかったですね」
そうはいいながらも厳しい状況の中、わずかな時合いを逃さずに50㎝オーバーを浮かせ、仕留めた南である。
巨チヌを寄せ、浮かせ、近距離の中層で仕留める南スタイルで、ぜひチヌ釣りにチャレンジしてほしい。
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